とうとう禁断の聖地、1/35スケールに手を出してしまった。これまで手軽に組み立てられる1/48スケールのキットばかり製作してきたが、ここらで1つ、じっくりと1作やってみるかという気持ちになった。しかし私が選ぶ車輌はやはり普通のものではなく、今回も「変り種」だ。箱にはドイツ装甲偵察車と書かれているが、このAB43は生産はイタリア・ルノー社だ。現代でも自動車メーカーとして活躍しているあのルノーだ。第2次大戦当時、イタリア軍の降伏によってますます孤立していったドイツ軍は占領下にあったルノー社工場にこのAB43の生産を継続するよう求め、ドイツ軍用偵察車輌として生産され続けたということだそうだ。したがってドイツ人の発想による産物ではない。あくまでもイタリア人の発想で、その既存の車輌をドイツ人が合理的に使用したというのが実態だ。いつの時代も「良いものは良い」という考え方は存在するのである。
さて、今回製作したキットはタミヤから発売されているが、実際はタミヤ製ではない。イタリアのイタレリ社製のキットをタミヤが正規代理店として日本国内で販売しており、そのタミヤとイタレリのコラボレーションというカタチで「限定生産されたキットである。したがって箱には★☆のタミヤマークとイタレリのマークの2つが存在する。しかし、箱のつくりやデザインは完全にタミヤの同シリーズのデザインで、一見すると純粋にタミヤ製のキットとなんら変わらない。しかし、箱を開けるとそこには「Made
in Italy」と書かれたビニール袋に入れられたパーツが収まっており、ちょっと景色が違う。キットは完全にイタレリ製なのだ。このイタレリ社製のキットはこれまで見たことも手にしたことも無い私だが、このAB43という独特の車輌に興味を持ち、思い切って入手し、製作した。成型やパーツ割り等明らかにタミヤの設計とは違うと感じる部分も多々あったが、海外メーカー製プラモデル独特の歪みや設計のいい加減さ等はあまり見られず、さすがにタミヤマークを付けて発売しているだけのことはある。しっかりとしたキットだ。
製作には相当な時間を要する。これまでの1/48スケールのキットとは訳が違う。より細かなパーツ割りで精密に再現されたキットである。タイヤは中空構造のゴム製で、弾力のあるパーツだ。その他のパーツはすべてプラ製だ。最近のキットでは各種エッチングパーツ(金属製のよりシャープな部品)やヒモ等のプラ以外の材質でできたパーツが同梱されていることが多いが、このキットではタイヤ以外は純粋にプラ製部品のみで構成されている。2〜30年前のキットに慣れ親しんだ世代の私にはとてもスムーズに入っていくことができた。キットでは車内の装備品等もある程度再現されていて面白いが、「しっかりと」再現されている訳ではない。市販のキット外パーツを利用すればその精密な再現も可能なのだろうが、今回はそういったカスタム的なことは一切行っていない。いわゆるストレート組みだ。
ずんぐりむっくりとしたこのデザインがたまらない。ヘッドライトも車体前方ではなく車室前面の装甲板に埋め込まれ、かえるのような可愛らしい表情になっている。そのヘッドライトにはフタがあり、開閉選択式で組み立てる。せっかくの可愛らしい表情を変えたくなかったのでフタは開いた状態として組み立てた。また、大きく張り出したフロントフェンダー前方には左右それぞれにジェリカンが備え付けられている。まるで頬を膨らませたかえるのようだ。その両脇からはコーナーポールが生え、AB43の1つのアクセントになっている。装甲偵察車でありながら回転式砲塔を装備しているところも興味深い。塗装は本来、この車輌独特のダークグリーンとブラウンの2色を基本とした迷彩で、それぞれの色の境目にはダークイエローの細いラインで縁取りがされたような変わった迷彩色だ。が、これは高額なエアブラシを用いて仕上げないとできない塗装なので今回は見送った。通常の3色迷彩にしてある。あるものでなんとかするのが私流だ。
後部。AB43は4輪駆動であり、4輪操舵であり、4輪独立懸架である。現代の高性能な4WD車を見慣れている私でも驚く程の凝った構造である。さらに、後退用に後ろ向きにもう1つの操縦席まで装備され、前後どちらにでも通常走行が可能なのである。60年以上前の車輌とはとても思えない程の高性能ぶりだ。エンジンは後方にレイアウトされ、やや尻長なボディ形状だが、こちら側から見て「こっちが前」と言われれば知らない人なら信じてしまうようなデザインだ。後方用のヘッドライトや機銃まで付いているのだから。その後方用ヘッドライトは片方を破壊された状態にしてみた。というのもパーツが吹っ飛んでしまい、発見できなかったのだ。作業が細かいとこういうハプニングはツキモノである。リアフェンダーは前程は張り出してはいないがやはりアーチ状の形状で前同様にコーナーポールが立っている。四隅に配置されたこのコーナーポール先端は赤く、視認性が良い。小さな窓から覗くようにして操縦するこの車輌ではこのポールがとても役立ちそうだ。
車体右側真横から。乗り込みは後輪直前にあるドア(左右にある)から。車内は白で塗られていたそうだ。今回も見えない部分ではあるが、白で塗装してある。本物の自動車用の塗料でシャーシー周り、とくにタイヤハウス内を塗装する際に使用する「チッピングコート」という塗料で塗装した。これは自動車のタイヤハウス内を覗いたことのある人なら解かると思うが、ザラザラした独特の塗膜を形成する特殊な塗料である。これがまたいかにも軍用車らしい車内を演出してくれてすばらしい。模型にも充分使える塗料である。右側面後方にはマフラーが剥き出しで取り付けられている。斜め下方向に向けてフェンダーアーチに沿って張り付いている。マフラー交換は簡単そうだ。左右ともに前輪と後輪の間にスペアタイヤがある。ボディに埋め込まれるように取り付けられていて車内スペースを犠牲にしている。
後部シャーシー。現代のクルマで言う「ダブルウィッシュボーン」のような懸架方式で、コイルスプリングを使用している。さらに興味深いのはドライブシャフトが車体中央に向かって斜めに走っており、フレームを突き抜ける格好で駆動させている。通常、強度や動力伝達の合理性からプロペラシャフトを介してデフによって駆動方向を変え、タイヤに対して垂直にドライブシャフトを取り付けるのが一般的だ。なぜこのレイアウトになったのか開発した当時の事情が知りたいところだ。このようなレイアウトはこれまで20年近く現代の自動車業界に身を置いている私も見たことが無い。実に不思議な構造だ。そのサスペンション周りの塗装には例によってまたしても自動車用塗料である「シャーシーブラック」を使用している。これ以上本物に近い色は無いだろう。いつもながらとても重宝している。
前部シャーシー。この角度から見るとシャーシーブラックの威力がよく解かる。実に本物の色味だ。見え難いがブレーキ周りもある程度再現されているが、4輪ドラム式ブレーキで、ホイールシリンダーの位置がどこにあるのかが推測できるバックプレートである。ただ、この模型では4輪とも同じ形状で再現されているが、実際もそうだったのだろうか・・・。通常、4輪ドラム式ブレーキの場合には「リーディングトレーリング」方式と「ツーリーディング」方式があり、前2輪には「ツーリーディング」、後2輪には「リーディングトレーリング」を使用する。この車輌の場合、前後両方向に走行可能なので、4輪ともに同じ方式にしているのかもしれない。だとするとブレーキの効きという部分ではあまり高性能とは言えない性能だったのだろう。「ツーリーディング」方式を前にするのは前進方向に対してドラムとシューの当たりがより密着し、回転を止める方向に力が働くためである。一方「リーディングトレーリング」方式は回転するドラムに対し、片方のシューは密着しようとする方向に力が働くが、もう片方のシューはドラムから離れようとする。これを強制的に押さえつける方式の為、「ツーリーディング方式」よりも効きが悪い。ではなぜこの方式を採用するのかというと、サイドブレーキの存在と、前後のブレーキの効き具合を調整している意味がある。通常、クルマは前輪ブレーキの制動力を強く、後輪ブレーキの制動力を弱くする。ブレーキング時に車体が前のめりになるのを見たことがあるだろう。これが車体を前のめりにさせる理由なのである。こうすることで制動時の車体がコントロールできるよう、自然に止まることができるのだ。しかし、このAB43では4輪とも効きの弱い「リーディングトレーリング」方式に見える。重量7トンを超える巨体ボディを時速75キロで走らせるエンジンとの相性はあまりよくなかったことだろう。
タイヤ。悪路に適したパターンのバイアスタイヤ。9.00X24とある。なんと24インチサイズのタイヤだ。現代の大型トラックでも20〜22.5インチサイズが主流だ。それよりも大きなサイズということになる。その巨大なタイヤに履かせてあるホイールは見慣れたホイールナットは見当たらず、6本の太いスポークがある。スペアタイヤにはこのスポークが無い。ということはこのスポークでタイヤを固定しているということになる。これまたじつに特殊な取り付け方法だ。おそらくセンターキャップを外すとワンタッチに近い状態で脱着可能なのだろう。ぜひとも実車を見てみたいものだ。
さて、今回は初めての1/35スケールモデルのレポートだったが、なかなか作りごたえのあるキットだった。少しづつではあるがゆったりとした時間を楽しく過ごさせてもらった。1/48スケールとは時間の流れそのものが違うように思えた。組み立てる際にも徐々に出来上がっていく様はまた格別のものがあり、じっくりと製作に打ち込める。純粋なタミヤ製ではないものの、1/35スケールの世界を存分に堪能できるキットだった。また時間が取れるようだったらチャレンジしてみたいと思う。しかし、このAB43。なんとも不恰好で良い。完成した際には思わず笑みがこぼれる程だった。こういう車輌は私は大好物である。
(2007.07.15)
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