第2次大戦時のドイツではさまざまな銃火器が開発され、その多くは現代でも「名銃」と呼ばれる。ワルサーP−38やPPK、モーゼルM712、ルガーP−08等…。お馴染みの銃が多い。とくにP−38は「ルパン三世」によって知名度が高い。幼い頃、銀玉鉄砲といえばたいていこれだった。PPKは「007」シリーズで有名だ。第1作「ドクター・ノオ」でベレッタから持ち替えたPPKを第18作目「トゥモロー・ネバー・ダイ」まで使用し続けた。そんな名銃の陰に表舞台ではほとんど活躍する場面はなく、ひっそりとその存在があまり知られぬまま現代まで生き続けている銃もある。今回紹介するモーゼルHScはまさにそんな存在だ。歴史は古く、戦中は将校たちの携行品となっていたHSc。この銃は現在ではモーゼルではなく、アメリカの銃器メーカーでコレクター向けにライセンス生産されているという。ということはコレクター達には人気があるということだ。日本ではあまりにも無名だが、海外、とくにアメリカではそれなりに有名らしい。
さて、今回紹介するモーゼルHScは新製品ではない。現在は、マルシン社から「シークレット・エージェント・シリーズ」(以下SAS)にラインナップされているが、実質、生産は数年に1度少数が出荷されているだけである。現在、新品で手に入れるにはこれしかない。過去にはモデルガンで発売していたメーカーもあったようだが、今は生産されていない。私の持つHScはマルシン社製ではない。厳密に言うと、マルシン社で製造されてはいるが、販売元が違っているのだ。レプリカ社の刻印が刻まれたこのHSc。実はマルシン社で製造され、レプリカ社が販売していたらしい。原型は現在生産されているマルシン社のSASのHScと同じだ。違いはバレルにHOP機能が付いたことと、マズル(銃口部分)にサイレンサーを取り付ける為の金属パーツが付いたことくらいだ。その他のパーツはすべて当時のまま生産され続けている。色も違いがあり、現在はブラックとシルバーの2色だが、当時は写真のようなブラックのスライドとシルバーのフレームの組み合わせである「ハーフシルバー」モデルも存在した。
以前、カスタムのススメのページで紹介したように、私のHScには磨きとホワイトの墨入れを施してある。見栄えを少しでも良くするカスタムだ。設計が古く(銃自体が古いので仕方が無いが)、現代のエアガンには到底及ばない仕上げのHScをなんとか美しく仕上げ直したいという思いから行ったものだ。今回、このHScをさらにディテールアップすることにした。プラスチック然としているグリップの塗装だ。以前からなんとかしたいと思っていたのだが、なかなか手を付けず、ここまで来てしまっていた。頭の中では作業のおおまかな工程は出来上がっていて、それを実行するだけだったのに・・・。プラスチック製グリップはいくら木製に見せようとしてもメーカー出荷時のままだとどうしても見劣りしてしまう。このHScのグリップは数種の茶色の樹脂が微妙に混じり、一応木の風合いを醸し出してはいる。しかし、塗装をするにはそれなりの訳がある。明るいのだ。実銃では60年以上前から活躍している銃だけに、グリップが切り出して間もない木のような色合いではあまりにもおかしい。時代錯誤というものだ。そこで、私の至らない塗装技術で可能な限りの古さと味わいを表現することにした。上の写真はいきなり塗装前(右)と塗装後(左)だ。暗く使い込まれた感じがうまく表現できたと思う。
一番上の写真と比べてみて欲しい。右の写真のグリップの方が明らかに質感が高い。塗装の下準備として、まず両面のグリップを本体からはずす。外したグリップの表面は成型時のままとくに表面処理はされておらず、プラスチックの地のままだ。真ん中には大きくチェッカリングが施され(滑り止めの為の加工。チェック模様に刻まれることからッチェッカリングと呼ばれる)、これは悪くない。この部分以外のツルツルの部分に下準備を行う。まず、耐水ペーパー(600番くらい)でテカりを無くす。これは塗料の乗りを良くする効果と、木本来のザラザラ感を表現する為だ。艶がなくなり、全体に粉を吹く感じになればOKだ。さらに荒めの耐水ペーパー(当店には320番というのが大量にある為、これを使用)で仕上げていく。この時注意しなければいけないのは、木には目の向きがあるということだ。今回は上から下へ目が走るように表現している。つまり、ペーパーを上下に滑らせ、削り溝が縦に走るように心がけるのだ。全体をとにかく上から下に向かって削っていく。先ほどの600番では適当に擦ったが、その適当な目と今回の縦溝が折り重なるようになり、木の風合いが表現されるのだ。さらに角ばった精密ヤスリを用いて所々に深い縦溝を付けてやる。とくに上端と下端には多めに付けるのがポイント。木というのは加工するほど繊維が解れてくるもので、丸みをつけた上端と下端は途切れた繊維が露出しているはずである。その繊維が解れた感じを表現するのだ。まったくのランダムなキズで構わないが、人間が意識して行うとどうしても均等になってしまう。ここは充分に注意したい。できるだけ自然に見えるよう配慮が必要だ。
出来上がったら1度水洗いして削りカスをキレイに落とす。さらによく乾かす。乾くと白っぽくなるハズだ。チェッカリング部はなにもしていないのでそのままになっている。このチェッカリング部に詰まったカスはハブラシ等で丁寧に洗い落とす必要がある。完全に乾いたら、いよいよ塗装だ。今回の塗装では元のプラスチックの成型色を生かして木の風合いを出す。そこで、使用する塗料はプラモデル業界最大手タミヤのアクリル塗料。X−19という品番の「スモーク」という色だ。クルマのプラモデルのガラスをフィルム張り風に仕上げる時に使用する色だ。黒っぽい半透明の塗料で、あまり銃のディテールアップには使用されない色である。これを筆塗りする。チェッカリング部は筆に大量の塗料を付けてたらすような感じで溝に流し込んでやる。まんべんなくこれを行えばそれだけで質感は高まる。問題はその他の表面加工した部分だ。塗る際も筆を上下に動かし、決して左右に動かしてはならない。さらに均一ではなく、ヤスリで作った深い溝には多めの塗料を流し込み、さらに所々濃いめの部分を作る。最初は均一に塗って、一旦乾かし、その上から濃くしたい個所に重ね塗りを行うとうまくいく。3〜4回の重ね塗りを行い、木の風合いを仕上げていく。
こうして出来上がったグリップを取り付けてみると・・・。なんとも言えない古臭さとリアルな木の質感がシルバーのフレームに映える。なんとも良い景色だ。おもちゃ然としていたあのモーゼルHScが本当の「モーゼルHSc」になった。こうなると以前入れたホワイトの墨入れも生きてくる。実際、HSc用の木製グリップは販売されていないだけにどこまでリアルに表現できるかによって見栄えがまったく変わってくる。現在、マルシン社製HScはブラックモデルが¥3990−、シルバーモデルが¥4725−となっている(どちらも定価)。当時のレプリカ社製はもう少し安かったのだろう。そんな低価格なエアガンが見違えるほどのクオリティで甦った。また良い仕事をしたとご満悦のBossだった。
番外編
このエアガンは実はタダでもらったモノなのだ。とある事情で整理しなければならないという人物のモノを仲介を経て私の元へ届いたものだ。「タダより高いものは無い」とよく言うが、今回のは「タダより安いものは無い」だ。こんなすばらしい素材を提供してくれたことに心から感謝している。作動もまったく問題無く、絶好調だ。とても良いモノを頂いた。大事にしていきたい。 |