Aoshima 1/700 Water Line Series
大日本帝国海軍 戦艦
陸奥


艦船モデルの製作は久しぶりです。以前は自主的に製作した駆逐艦「睦月」でした。小さな船体ゆえ、独特の細かいパーツ群もそんなに苦にならないだろうということで選んだ船でした。今回は当時、「巨大戦艦」と言われ、華々しくデビューを飾った巨艦「陸奥」です。当店の常連さんであり、ホビー事業部の影のドン「ダースアトム」氏からの提案で製作にかかりました。というか、提案というより私に黙ってすでに購入し、持参したのです。ようするに作る「素材」があればやる気になるだろうというダースアトム氏の目論見にまんまとハマった訳です。

大正時代に建造され、改修に改修を重ねて巨大戦艦と化した陸奥。その最期は謎に包まれた壮絶かつ無惨な最期でした。広島に停泊中の陸奥は突如第3砲塔付近(船体の後から2番目の砲塔)から煙が立ち昇り、その直後、壮絶な大爆発を起し、沈没しています。その原因は今日でも謎のままで、原因究明の為に当時の海軍を始め、現在まで多くの人々によって調査されてきましたが、当時の海軍の閉鎖的な体質ゆえ、その原因は明らかにされないまま終戦のドサクサで発表されませんでした。事故、スパイによる爆破、海兵の自決による誘爆等さまざまな憶測があります。いずれにしても決定的な証拠は何1つ無くあくまで憶測の域を出ません。そんな不可解な最期を遂げた陸奥を選ぶダースアトム氏のセンスはすばらしいものがあります。

さて、模型ですが、キットはアオシマ製。ディテール的にどうなんだろう?という不安を抱きながらの製作となりましたが、出来上がってみれば、その堂々たる姿はまさに大艦巨砲主義の申し子のようで、そびえ立つような艦橋と巨大な4つの主砲、幅広な船体が迫力満点です。大きな船体も完成すると全長は330mm前後にもなり、その迫力を存分に味わえるキットです。ただ、キット自体が古いものなのか、バリや歪み等が非常に多く、細かい部品1つ1つを丁寧に仕上げた上での組み立てが必要です。とくに艦橋は1本のプラ棒のような部品を柱としてそれに各階のフロアを突き刺して重ねていくという構造です。うまく擦り合わせや調整を行わないとまっすぐにそびえ立ってくれません。陸奥の顔であるこの巨大な艦橋がひん曲がっていては他が良くても台無しです。かなり面倒な作業の繰り返しですがここは慎重に組み立てていきます。

その艦橋付近の画像です。後のマストとほぼ同じ高さです。煙突がとても小さく、低く見えます。この煙突付近もかなりゴチャゴチャしていますが、こういう部分は「アラ」を隠せる部分でもあり、しっかりと作り込むととても見栄えのする場所でもあります。高温になる煙突ですから、サビ等の表現に加え、スス汚れ等もしっかりと再現しておきたい場所です。煙突の周りにはたくさんの機銃や照明灯等があります。この照明灯はレンズ部をメッキシルバーというホントにメッキをかけたようにピカピカに仕上がる塗料を使用しました。ただ、ススを一番被り易い場所でもあるので、周りは艶消し黒で汚れを他の部分より多く再現してあります。なので余計にメッキシルバーの輝きが際立ちます。これらの照明灯に必要な電力も相当なものでしょうから、電線も引き込んでみました。

艦載艇も多数装備されています。1つ1つを1個のキットだと思って塗装していきました。配列は説明書に従って配置しましたが、多少のアレンジもアリだったかな?と思います。また左右の側面に無数の対空砲が生えていますが、こちらも1つ1つバリを取り、砲身をシャープに削って塗装をして取り付けてあります。砲身の付け根の白い部分(主砲にも付いていますね)は防水の為のキャンバス地の布ですが、白で塗装後、墨入れ等で布らしさを再現しています。艦載艇にも同様の部分がありますので同じような再現方法で塗装しました。船体各部の塗装は便利な「呉海軍工廠標準色」を使いました。ラッカー系の塗料ですので食いつきも良く、上塗りしても侵されにくい塗膜になります。デッキはタンという肌色に近いデッキ用の色を用いています。何1つ特殊なことはしておらず、基本に忠実に仕上げてあるという感じです。

まさに「浮かべる城」といった面持ちの陸奥の艦橋を正面から。薄暗く影になっているあたりが何ともバツグンの雰囲気です。主砲はポリキャップで固定されていますので完成後も可動(回転)します。また、主砲先端はピンバイスで穴を開け、簡単なディテールアップを施しました。複雑な艦橋基部の段差辺りの表現は、船体色とタンとのメリハリのある塗り分けが決め手となります。各種資料等を用意して正しい塗り分けを心がけました。甲板上の突起物等も筆で1つ1つ船体色に塗り(1部マスキングによるスプレー塗装したものもあり)ました。非常に細かい作業ですので忍耐力が試されます。艦橋の壁面にはある程度の汚しが必要です。小奇麗な艦橋では迫力に欠けてしまいます。この辺りは汚しすぎず、キレイすぎない適度の汚しが不可欠です。

艦載機は同梱されているディテールアップパーツのものを使用します。こちらも細かい作業ですが、暗緑色で機体を塗装後、機首カウル部を艶消し黒、コクピットをフラットブラウンで塗装し、デカールの日の丸マークを貼り付け、艶消しクリアでコーティングしてあります。また、その艦載機を吊り上げるクレーンにも極細のテグスを接着してワイヤーを再現した後、プラ板で製作したクレーン先端部を接着しました。ほとんどムシメガネで見ないと確認できないくらいの作業です。さらにそのクレーンの柱の付け根の接着の際にはしっかりと垂直に立ち、かつ、アームの方向にも気を配りながら慎重に接着しなければなりません。こんな部分でもこだわり出すとキリがありません。こういう作業に艦船モデル製作の楽しみがあるのでしょう。なんとなくですがそういう楽しみ方が解かったような気がしました。

艦首にはやはりディテールアップパーツの中から「菊」の御紋が付いています。ゴールドで塗装し、大日本帝国海軍が誇る巨大戦艦であるその勇姿を最大限にアピールしているアイテムです。非常に細かく彫り込まれた菊の御紋は取り付ける手にもつい力が入ってしまいます。次に菊の御紋のちょっと後には錨があります。停泊時には海中に下ろし、潮をモロに受けるパーツですのでサビの表現を施しました。うっすらと茶色いサビが垂れている感じを表現してあります。左右とも均一かつ自然な仕上がりとなるように心がけました。エナメル系の塗料を薄めて実際に錨から垂らすように塗装し、乾燥したらエナメル塗料の溶剤をティッシュに含ませて少しづつふき取り整えていきます。こんな細かい部分でもけっこう手間がかかっているのです。そして、艦首甲板上には電線の支柱が立っています。これは実際に電線を再現する為に強度の問題から真鍮の棒に交換してあります。取り付け位置にピンバイスで穴を開け、瞬間接着剤で固定します。これで強度は充分です。

艦首から艦尾までたくさんの電線を張り巡らせました。「鮎釣り」用の極細の釣り糸(0.07mm)を1本づつ張っていきます。まずは艦首から艦橋まで、艦橋から後部マストまで、後部マストから艦尾支柱までというふうにメインとなる電線を張っていきます。次に艦橋から後部マスト中段部へさらに追加します。これでメインの電線が出来上がります。あとはそれぞれの適当な場所から資料を元に細かく張っていきます。すべて瞬間接着剤でくっつけていきますが、釣り糸の性質上、なかなかカチッと接着できません。同じくらいの細さの金属製の釣り糸も売っているらしいのですが、この近辺では見かけられず、通常のナイロン製の糸になってしまいました。おかげで接着作業は困難を極め、ものすごい時間をかけてしまいました。まぁ、仕上がってみればその出来栄えにそんな苦労もすっかり忘れてしまうくらい臨場感溢れる仕上がりとなるのですが・・・。

前方甲板上の画像です。鎖の再現は2つの方法で迷いました。1つは元からモールドされている鎖を丁寧に塗装して仕上げる。もう1つは模型用に販売されている極細の金属製の鎖に交換して再現する。結論から言えば前者にしたのですが、理由は私の「できるだけお金をかけず手間をかける」という考え方によるものです。確かに実際にモールドを削り取り、金属で出来た鎖に交換すれば質感はバツグンでしょう。しかし、それは手間をかけて自分の力で作ったのではなく、すでに製品として作られているものに交換をするだけのこと。余計なお金を使わなくても充分にリアルに仕上がるものです。ということで元からモールドで再現されていた鎖を焼鉄色で塗装し、墨入れを施して再現しました。



さて、いかがでしょうか。あまり艦船モデルはこれまで取り上げてこなかったのですが、いきなり巨大な戦艦「陸奥」を製作しました。これまでも興味が無かった訳ではなかったのですが、どうも敷居が高いというか細かすぎて面倒だとかという雑念ばかりが先立ってしまっていました。でも、実際、製作してみると意外と楽しく、大した腕でもないのにちゃんと仕上げることができ、安心しました。ダースアトム氏からの素材提供はもう1隻あります。これもきっと楽しく作ることができるでしょう。アオシマ社製ということで部品に付着したバリ等が強烈でしたが、もう1隻の方は天下のタミヤ製。そんな心配も無くさらに安心して作ることができるでしょう。

しかし、こんな巨大な戦艦が一瞬にして大爆発を起し、沈没したのですから、当時、現場に居合わせた人々はびっくりしたでしょうね。華やかに登場し、戦いの末に撃沈したのではなく謎の爆発によって不運の沈没を遂げた陸奥。なにか運命的なものを感じます。

(2008.03.22)